私は蜘蛛が大の苦手。
蜘蛛の姿を見たら飛び上がって驚くし、体からは驚くほど大量の汗が出るわ・頭の中が真っ白になるわと、もう滅茶苦茶。
蜘蛛一匹が出現しただけで肉体・精神共に大ダメージを受けるし、サイズによってはオーバーキルを受けしまい、しばらく立ち直れない時もある。
とにかくひたすら蜘蛛が嫌いな私だが、住んでいる場所が超田舎なのでとにかく巨大な蜘蛛が出る。
そしてその度に驚き・テンパり・家事もままならないくらいダメージを負う。
「正直、もう疲れたよ…。」
基本的に低テンション・低燃費で生きているので、焦ったり驚いたりすること自体がしんどい。なるべくいちいち驚かないで生きていきたい。
とはいえ、自宅にあまりにも蜘蛛が出現するので、ミリ単位のダニみたいなサイズ~直径3センチくらいの蜘蛛くらいならば派手に驚かなくなってきた。
驚くけれど、飛び上がりはしない感じ。
「こりゃあ、このままいくともうちょっと大きい蜘蛛でも慣れるんじゃないか?」
というわけで、ちょっと前の夜に台所に出てきた3センチくらいの蜘蛛をあえて駆除してもらわずに野放しにすることにした。
きっとこの蜘蛛は大きくなっていくだろう。
その成長を目にしていれば、私もだんだんと大きな蜘蛛に慣れていくのではないか。
とりあえず「愛着」が必要だろう。
私は愛着をわかせるため、その台所に出てきた蜘蛛に「ウッシー」と名付けた。名前の由来は台所に祭られている謎の牛の置物を収めた棚からその蜘蛛が出現したからである。深い意味はない。
「というわけでウッシーの成長を、しばし見守っていこう。」
こう決意して数日が経過しているが、ウッシーは私が夜に台所へ足を運ぶたびに戸棚の扉や壁などいろんなところに張り付いて私を出迎えてくれている。
不思議な事に朝や昼などの日中はどこにいるのやら全く出てこない。
時間を弁える、紳士的なウッシー。
気がつくと、毎晩ウッシーに会う事が楽しみになっていた。
ウッシーの姿を見ると「うわっ出た!きもちわるい!」と思いながらも「ああ、今日も出迎えてくれた」「あら、今日はこっちにいたのね」と、気持ち悪さ半分可愛さ半分でウッシーを認識するようになっていった。
毎夜、ウッシーと秘密の逢瀬。
日に日に愛着も強くなる。
ウッシーのすらりと伸びた6本の脚が可愛く見える…ことは無いし、一生懸命壁に張り付いている様子がいとおしく思える…こともさすがにないけれど、ウッシーが出てきてくれない日はちょっと探したりさみしくなったりする程度には愛着がわいた。
そしてそんな私の気持ちをよそに、ウッシーは日に日に成長していく。
出会ってからそこまで多くの日数は経過していないのに、いつの間にか直径4センチを超えてきた。
3センチは平気だったのに4センチを超えてきたあたりから急にウッシーを気持ち悪く感じるようになってきた。
ピグミーマーモセットだと思って愛でてたらいつの間にかゴリラになっていたみたいな心境。
えっちょっともうなんか無理なんですけど…?愛着よりも恐怖が勝るんですけど…?
…いやでも、ここを耐えてウッシーを愛でて行けば私は蜘蛛を克服できるしウッシーも安全な室内で餌をとらえて成長し続けていくことができる。ウィンウィンの関係ってやつだ。
絶えろ。耐えるんだ私。
そう、ウッシーのすらりと伸びた足。
ぷっくりとした体。じっくりと見て。
…うーん。
かわいいいいいいいぃぃぃぃいいイヤアアアアアアアアアアアーーーーーー!!!!
無理!!!!!!!!
やっぱり無理!!!!!!!!!
なんでこんな蜘蛛克服とか始めたの私!!?
苦手な生物を室内で野放しにするとかよく考えたら狂気の沙汰じゃん!!!
いやほんとマジで馬鹿なの私!!!?
クッ…でも名前まで付けたし、でもまだかすかに愛着がある…といえばあるんだよなあ…。
野放ししておくのはもう流石に気持ち悪い。
だけど愛着がかすかにあるから倒してしまうのは無理。
こんな私の葛藤をよそに、止まらないウッシーの成長。
愛するのは無理だけど別れられない。
蜘蛛を克服しようとして、最悪な状態になりました。
ほんっっっとうにマジもうどうしよう。
とりあえず今日もウッシーとの秘密の逢瀬を(なるべくウッシーを見ないようにして)耐え抜きたいと思います。