私がまだ学生だった時に母方の祖父がなくなった。
葬儀に参列した私はなぜか骨を拾う場所まで引きずりこまれてその儀式を終え、なんとも言えない衝撃と悲しさと斎場の人の「焼きあがりました」というパンでも焼いてきたかのような一言に誰もツッコまない現実が心の中で渦を巻いてモヤモヤしたまま祖父の家に戻った記憶がある。
「人がしぬというのはこういうことなんだ…。」
ゴリラみたいな顔して無愛想な見た目をしているけど、孫である私をとても可愛がってくれて大好きだった祖父があまりにもあっさりといなくなった。
あまりにあっさりしすぎていて、まだどこかにいるんじゃないか?さっき拾った骨はずいぶんとゴツかったし熊かなんかじゃないのか?信じられない気持ちで一杯だった。
縁側で祖母が出してくれたなみなみと注がれた麦茶を飲みながらそんなことを考えていると、見たこと無いくらい大きなオニヤンマが私や他の親戚達が休んでいる部屋に入り込んできた。
「でっかい…。」
ぼんやりとオニヤンマを眺めていると親戚の誰かが「でっけえオニヤンマじゃのう、こりゃあ祖父がみんなの様子を見に帰ってきたんじゃろう。」と言った。
どうやら亡くなった人の葬式や法事・お盆などをしていると昆虫などが部屋に侵入してくることがよくあるらしくて、真偽の程は定かではないけど「亡くなった人が姿を変えてみんなの様子を見に来たり挨拶しに来たりする。」という考え方があるらしい。
「じゃあこのオニヤンマはじいちゃんかもしれないのか…。」
なかなか部屋を出て行かずにみんなの頭の上をグルグル回遊し続けるオニヤンマ。
「ここから…まさかの奇跡的な展開が…!!」みたいなことは一切起きずに、ある程度したら縁側の空いてる窓からシャッと出て外に帰っていきました。
マンガとかでは効果音が鳴って煙が出て、オニヤンマが祖父の姿に変身…とかあるんだろうけどやっぱり現実は現実なんだな…でも「…ほんとに祖父がさいごに会いに来てくれたのかも?」とか、青空に消えていくオニヤンマの後姿を見ながら色々と考えた…そんな懐かしい思い出。
…私は今、訳あって離れたところに暮らしているから祖父のお墓参りどころか実家のお墓参りも行けないなあと「お盆のラッシュが始まります。」って言い出したテレビアナウンサーを見ながら思っていたのだけど、今朝玄関から出たらあの時と同じくらいでっかいオニヤンマが結構長い時間私の周りを飛んでいるから「もしかして…おじいちゃんが会いに来てくれたのかな?」とか勝手に思ってしまいました。
お盆には手を合わせに行けないけど、いつかお参りできる状況になったら手を合わせに行くよ。おじいちゃん…今は行けないんだごめん、本当にごめんね。
お盆には気持ちだけでも、祖父のお墓のある方角に手を合わせたいと思います。