私は昼食を平らげた後、全身全霊の力を使ってダラけていた。
カーペットの上に横になって、クッションの上に頭を置いてダラダラとスマートフォンをいじくっていた。
そんな時に玄関のインターフォンが鳴った。どうやら宅配物が届いたらしい。
慌てて起き上がり、返事をしながら配達員さんの待つ玄関に向かいドアを開ける。
そこには荷物を持ったいつもの宅配のお兄さんが立っていた。彼の放つ笑顔がまぶしすぎて目がつぶれそうな圧力を感じた。薄暗い玄関が電気もつけてないのにやたらと明るく感じて「太陽が玄関に立っているのか」と思うくらいだった。
「…余計な事考えてる場合じゃない、早く荷物受け取らなきゃ」
こういう場合大体は「所定の箇所へ印を押し、荷物を受け取ってお礼を言って終わり」なのだが、たまたまお兄さん側がごく軽いひとことを投げかけてくれた。
しかし「急な会話イベント」に内心ビックリ仰天した私は「印も押さなきゃいけない」し、「気の利いた言葉を返したい」し、「そういえばお昼ご飯後に歯磨きしてないから歯と歯の間になにかはさまってたらどうしよう今ニッコリするのはマズイ」とか「ゴロゴロしてたから服とか髪とかボッサボサのガッサガサだし恥ずかしい」とか完全に焦ってしまっていた。
その結果、もう何を言われても「ハッ、ハイ!」しか返せなかった。
会話という会話では無かったように思うが、何をどう会話したのかは覚えていてない。
宅配のお兄さんの帰り際、なんとかギリギリ「ありがとうございました」とお礼が言えた事だけは覚えている。
全てが終わってゆるゆるとドアを閉めた。
一気に玄関は暗くなっていつもの状態に戻った。
とたんに力が抜けて、届けてもらった家族宛の宅配物をテーブルに置いて部屋へ戻った。
「ま、まぶしかった…。」
歩く太陽のような配達員さん。
いつもすごく忙しそうだし昨今の宅配事情はテレビ等でうっすら知る機会があるし激務だろうし、その激務をこなす最中にちょっと私が変な応対をしたところで気にも留める暇は無いだろう。
すぐに次の配送先に飛んで行ってあのまぶしい笑顔で荷物をお届けするのだろう。うん、少々変な対応をしてしまったからって気に病むことは無いさ!ハハ…ハハハハ…!!!
「…ハア…。」
昼ごはんを食べてダラける前までは脳がいい感じに回転していたし何か言われてもそこそこうまく返せたと思うのに…なんで、なんでこんな「一番だらしなく過ごしている瞬間」に来ちゃうのよ配達員さん…。
鏡を見て歯や表情のチェックをしても問題は無く、髪型も思ったよりボサボサしてはいなかった。
笑顔で「いつもありがとうございます」って伝えられれば良かったなあ。
常にピシッとしてるのは無理だししんどいけど、こういう時にガッタガタの応対にならないようになるべく「そこそこベスト」な状態で居られるように心がけたいと思います。